【Silver & Sound -音楽家を刻む銀塩写真】モノクロフィルムで撮影する音楽家
- とまるおさむ
- 5月9日
- 読了時間: 4分
#025:表現の選択としてのデジタルとアナログ

利便性の先にある「選択」
かつての帳簿が算盤からPCに変わったのは「効率」のため。
しかし、写真や音楽において道具を変えるのは、効率のためだけではありません。
CanonかNikonかといメーカーの差」はSteinwayかBoosendorferかという好みの差。
しかし、デジタルかアナログかは、そもそも「楽器そのものの構造」が異なる別の表現手段なのです。

「平均律」と「純正律」の肌触りの違い
デジタル写真は、いわば完璧に調律された「平均律」の世界。
どこを切り取っても破綻がなく、極めてクリアです。対してアナログ(フィルム)は、その時々の温度や現像液の状態、フィルムの粒子によって、微細な「うねり」や「不規則性」が生じます。
これは古典調律における特定の和音の「濁り」や「輝き」に近いものです。
どちらが正しいかではなく、その質感が表現に必要かどうかが重要なのです。
古楽器が教えてくれる「不自由さ」の美学
バッハを現代のピアノで弾けば、音量は豊かで操作性も抜群です。
しかし、当時のチェンバロでなければ出せない「減衰の美学」や「発音の鋭さ」があります。
デジタルカメラ: 現代の金管楽器。操作性が高く、どんな環境でも鳴り響く。
アナログカメラ: バロック・トランペットやファゴットの親戚になるバソン。
制約は多いが、その楽器でしか出せない「その時代の息遣い」がある。
古楽器演奏家が不便を承知でそれを選ぶように、写真家もまた「その描写でしか救い取れない光」のためにアナログという選択肢を持ち続けるのです。
道具に縛られるのではなく、道具を「解釈」する
私は仕事で両方を使います。
それは、現代のオーケストラの中でモダン楽器を鳴らす日もあれば、古楽器アンサンブルで繊細なニュアンスを追う日もあるようなものです。
完璧にサンプリングされたシンセサイザーの音に、私たちは『正解』は見出せても、『感動』を見出すのは難しいことがあります。
それは、そこに『不完全な人間(奏者)の介入』を感じさせる隙間がないからです。
写真におけるレンズの収差や粒子のザラつきは、音楽でいうところのボウイングの摩擦音。それ自体は本来不要なものかもしれません。
しかし、その『ノイズ』があるからこそ、私たちはそこに、確かに誰かがその場所でシャッターを切ったという『体温』を感じることができるのです。
利便性で選ぶならデジタル一択でしょう。
しかし、表現者として「どの時代の、どんな湿度を伝えたいか」を考えたとき、アナログという選択肢は消えることがありません。

二つの楽器を弾き分けるように
結局、どちらが優れているかという論争はベートーヴェンのソナタを現代のピアノで弾くべきか、当時のフォルテピアノで弾くべきかという議論と同じで答えはありません。
大切なのは、表現したい音楽(ビジョン)に対して、最良の楽器(カメラ)を手に取っているかという一点に尽きるのです。
私はデジタルという現代の銘器もアナログという古楽器もどちらも愛しています。
デジタルは私に『不可能を可能にする翼』をくれ、アナログは私に『光の息遣いを感じる喜び』を教えてくれます。
それは、一人の演奏家が、曲によってスタインウェイとフォルテピアノを弾き分ける感覚に近いのかもしれません。
大切なのは『何で撮るか』ではなく、『どの楽器で、その光を歌わせるか』。
答えのないこの究極のテーマこそが、表現を永遠に面白くしてくれるスパイスなのだと感じています。

『儀式がもたらす「聴く・撮る」の覚悟』
現代では、結果に辿り着くまでの時間を『不便』と呼び、切り捨てようとします。
しかし、私にとってアナログカメラを扱う時間は、不便ではなく『儀式』です。
私は時々、ジャズ喫茶に行くことがあります。
たった一杯のコーヒーを1時間かけて飲むのですが、もちろん音楽を聴くためです。
ジャズ喫茶のマスターが、レコードの埃を払い、一滴のアルコールで針を清める。
あの静かな所作の間に、彼の心は音楽を受け入れるための完璧な器へと変わっていきます。
写真も同じです。
フィルムを巻き上げる手応え、光を読み解く思考。
その儀式を経てこそ、レンズの向こう側にある真実に触れられる気がするのです。
タイパを優先すれば失われてしまう、この『豊かな空白』にこそ、表現の真髄が隠れているのではないでしょうか。
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